ザ・クラウン
「ザ・クラウン」の原作・脚本を手掛けたのは、ピーター・モーガン。映画「ボヘミアン・ラプソティ」の原案、「クイーン」の脚本を制作した。この作品は、アメリカとイギリスの合同制作で配信はNetflix。史実を背景に、王室内外の物語が描かれている。史実以外は勿論フィクションだが、様々な暴露本や自叙伝も出版されているので、視聴者の想像力を掻き立てる。
シーズン1
エリザベスはフィリップと結婚、チャールズ王子とアン王女を授かり、幸せな結婚生活を送っていたが、国王である父が崩御し突然女王即位が決まる。一家の生活は一変し、フィリップは仕事を奪われ男のプライドを傷つけられる場面に何度も苦しむ。エリザベスも妻か女王としてかの選択に迫られ、葛藤する。また、王室とその伝統を守るため彼女が選択した決断により、妹のマーガレット王女を深く傷つけてしまう。しかし、幼少期から王室の一員として育った彼女には、王冠の重みを良く理解していた。時には冷徹にならなければいけない君主の孤独の始まりだった。時代は、第3次チャーチル政権からイーデン政権の1955年までを描いている。
元イギリス国王エドワード8世(ウィンザー公爵)が、王室を語る場面が印象的だった。「王冠を賭けた恋」として知られるウィンザー公爵と妻が暮らすのはフランス。夫妻でテレビのインタビューを受ける映像を観たことがある。王室への嫌悪感を露わにしながらも、恋しがる姿が痛々しい。
シーズン2
ドラマは、1956年のスエズ動乱から始まる。フィリップのご乱行がエリザベスの耳にも届くこととなり、王室が大騒ぎとなる。第一秘書であり、親友のマイク・パーカーとの別れと共に、フィリップのヤンチャな時代の終わりとなる。エリザベスは、ジョン・F・ケネディ米大統領夫妻の訪英の際、ジャクリーン夫人の人気ぶりに対抗心を持つ。エリザベスらしからぬ行動を取り周囲を驚かせる。このシーズンでは、彼女の地味で堅実な彼女の性格と、劣等感に焦点をあてる場面が何度かある。また、フィリップのゴードンストウン校での出来事と、チャールズの同校での体験が交互に進むことで、2人の人間性が良く描かれている。
時代は、イーデン首相の辞職を経て、1963年のマクミラン首相の辞職と労働党のウィルソン首相就任。
シーズン3
労働党のハロルド・ウィルソン内閣誕生から始まる。エリザベス女王は、王室の存続が危ぶまれるのではないかと、最初の謁見からウィルソンを牽制する。エリザベスが王位を継承して初めての首相であるウィンストン・チャーチルが死去。彼女にとって一つの時代が終わった。
このシーズンでは、マーガレット王女にスポットライトが当てられている。シーズン1でマーガレット王女が、最愛の人と結ばれず、その後に出会った写真家と結婚。エリザベスとは正反対の性格の彼女は、幼少期から注目される事に喜びを感じていた。自由奔放で無邪気な魅力。そんな彼女は、女王の補佐役という立場に苦々しい思いを抱いていた。新婚旅行で訪れた米国滞在中に、ジョンソン大統領とのディナーパーティーで、財政難に苦しむ英国に米国からの救済を獲得するという大仕事をやってのけた。しかし、彼女の希望である女王の公務の分担は、叶えられなかった。1966年ウェールズの炭鉱の村アバーファンで小学校と近隣の住宅を飲み込むボタ山の崩落事故が起きる。この事故で144人が死亡した。惨劇への対応に首相への批判はもとより、女王の対応にも批判が向けられた。王室内では、元国王ウィンザー公が亡くなり、マーガレット王女の結婚生活は破綻し自殺未遂を起こす。チャールズ皇太子とカミラ・シャンドの急接近による不穏な空気が漂う。
シーズン4
1979年に女性初の首相サッチャー内閣誕生から1990年に彼女が辞任するまでの、女王との関係を描いている。そして、今だに人気のダイアナとチャールズの悲劇的な結婚生活。2人の王子を授かるが、結婚生活はダイアナとチャールズを壊し始める。このシーズンは、ダイアナとチャールズに焦点が当てられている。
マーガレット王女の虚無感は、何をしても埋められずにいた。ある日、精神疾患の従姉妹がいることがわかる。エドワード8世が退位して弟のアルバートがジョージ6世として即位した際に、母方の精神疾患を持つ従姉妹たちは、世間から隔離され記録上は死亡扱いにされていた。
チャールズとダイアナの関係は、今まで多くのメディアが報道してきた。何が真実かは本人のみぞ知る。すっかりダイアナに感情移入してしまうシーズン4は、少し疲れる。子供過ぎたダイアナには、王室の色に染まるどころか、理解できないことばかりで過酷だった。王室での立場とは真逆にダイアナは、その美しさと備え持った人間的な魅力で、庶民から絶大な支持を得ていく。皮肉にもそれがチャールズとの溝を深くしていった。